黄春明 著/田中宏・福田桂二 訳
めこん
日本人の読者は気まずい思いをするだろう。1973年発表の表題作には“千人斬りクラブ”と称し、東南アジアで売春観光を繰り返す7人の日本人サラリーマン一行が登場する。当時、アジア諸国での日本人の売春観光は珍しいものではなかった。
勤め先の会社から、“千人斬りクラブ”一行の案内を命じられた青年、黄(ホアン)。中国人としての民族意識を持ち、祖父や教師から聞いた日本軍の大陸での蛮行に義憤を燃やす黄だが、生活のため、そんな“ポン引き”仕事も断れない。結局は郷里の温泉街で、売春のお膳立てをする黄の、内面の葛藤と、自分の行いを正当化しようとする煩悶が、ペーソス漂う喜劇として描かれる。
確かに、売春観光を横行させた日本と台湾の経済的不均衡は過去のものだ。しかし過去の植民地支配の歴史、その後の振る舞いへの反省までが十分に成されたと言えるだろうか。入手しにくい状況が続く本書だが、今でも再読される価値があるはずだ。
(※2022年、重版予定あり)