台北駐日経済文化代表処台湾文化センターと慶應義塾大学日吉電影節との連携企画「台湾文化センター 台湾映画上映会2024」映画『金魚の記憶』上映会トークイベントが、5月15日(水)に慶應義塾大学日吉キャンパスにて開催された。本上映会は2016年より台北駐日経済文化代表処台湾文化センターが開催する、台湾の今を描いた名作、意欲作を紹介する人気企画だ。本年度より、キュレーターに映画監督のリム・カーワイを迎えリニューアルして開催される運びとなった。
金魚の記憶になぞらえ、3人の男女がパラレルワールドで織りなす愛の物語をスタイリッシュな映像で描いた『金魚の記憶』(原題:(真)新的一天)は、スタイリッシュな映像美で話題となった『台北セブンラブ』のチェン・ホンイー監督の最新作で、2024年3月に台湾で劇場公開されたばかりの話題作だ。
チェン・ホンイー監督が“金魚の記憶”に込めた、現代を生きる若者たちの思いとは──
満席の会場を見渡し、「日本が大好きで、毎年のように訪れています。新作映画『金魚の記憶』の上映で日本に来ることができ、台湾文化センターと慶應義塾大学日吉電影節の皆様、そして観客の皆さんに感謝いたします。」と、チェン・ホンイー監督が日本初上映の喜びを語ると、会場から大きな拍手が起こった。台湾映画好きとしても知られる小川紗良は、「台湾ははじめてひとり旅で訪れた思い出の場所。ホウ・シャオシェン監督はじめ台湾ニューシネマから新作映画まで、台湾映画にはいつも魅了されいます。『金魚の記憶』を観て、新たに台湾のカルチャーとつながることができて、台湾に行きたい気持ちが高まっています」と挨拶した。
初長編監督作品のタイトルが『海辺の金魚』である小川が、「“金魚”つながりもあり、監督が“金魚”というモチーフを選んだ理由」をチェン監督に問うと、「映画の冒頭に“金魚の記憶は7秒”という、少女のモノローグが登場する。このセリフに、現代の若者たちが抱える焦燥感や、社会に希望を抱けない気持ちを代弁させた」という。本作の製作のきっかけに「香港の若者たちが民主化運動に参加する姿をみて、親や権力側の人間との間に起こる世代間の意識のちがい、衝突、距離」があったと、チェン監督が明かした。映画のリサーチを進める中で「自分の未来を考えた時に、山を登り切って見えるのは霧がかかった風景。その先に道があるのか、崖があるのかはわからない」と、現実に希望が抱けない若者たちの思いを聞いた時に、7秒しか記憶がもたない金魚というモチーフに、そうした若者の感情をこめることができると考えたという。
これには小川が「台湾では選挙の投票率も高くて、若い世代も未来を動かそうという気持ちに溢れているイメージだったので、それは意外です…」と衝撃を受けると、チェン監督は次に若者たちからのエネルギーを感じた点についても言及した。本作では異性愛、同性愛という様々な愛の形が描かれており、チェン監督は「アジアで初の同性婚合法化がされた台湾では、様々な愛の形、家族の形が受け入れられてきている。社会が受け入れていった背景には、若い世代が新しい関係をオープンにし、新しい価値観を提示していったこと大きい。若い世代のエネルギーが、世界を変えていっているのを感じる。自分の映画のテーマのひとつに“世界は常に変わり続ける”姿を描きたいというものがある」と、若い世代のエネルギーが映画にもたらした影響について語った。
実験映画が原点にあるチェン監督の作品は、解釈が何通りにもできるようになっているのが大きな魅力になっている。Q&Aでは、主人公の“計画”とは何を指していたのか、登場人物の死の解釈などについて質問があがった。チェン監督は映画の解釈はひとつではないとし、「映画の文法を守ることは大事だと思っている。本作も脚本は時系列通りになっていたが、編集の段階で登場人物たちの関係の築かれ方をメインに、時間軸を変えていくことした。それによって、世代間の衝突から相互理解、そこからどういう未来を選択すべきなのかを描くことができたと思う」と解説した。
「台湾映画ははじめて観た時から、なぜかノスタルジーを感じる。それは地理的な近さ、文化的な近さもある。でもそれだけではなくて、社会が抱えている問題、歴史的な背景、そこには日本が関わる複雑な部分も含め、だんだんとちがいが見えてくる。親しみやすくい入口から、ちがいに踏み込んで、知っていくことができるのが、台湾映画の魅力」と、小川が語った。「台湾は表現の自由度が高く、台湾政府の映画製作への支援も充実している。台湾には幅広い映画を生み出す土壌がある。近年、多くの中華圏の映画人たちが台湾に来て映画を作る理由も、そうした点が大きいと思う。日本の観客の方にも台湾映画を楽しんでほしいので、『台湾映画上映会2024』にまた参加してほしいですね」とチェン監督が話すと、会場から大きな拍手が起きた。