著 王 聡威 Wang Tsung-wei
訳 倉本知明
2018年8月 白水社
王聡威(ワン・ツォンウェイ)は台湾文芸界で最も重要な作家の一人である。小説家であるだけでなく、流行発信の業界にも足を踏み入れ、いくつものファッション誌の編集長を歴任。現在は台湾を代表する文芸誌『聯合文学』の編集長を務めている。『ここにいる』は2013年に日本で起きた事件に触発された。大阪市のマンションで暮らしていた母子が死後三ヶ月以上もたってから発見された事件。母親は夫の暴力に耐えきれず息子を連れて家を出たが、最後には完全な孤立無援の状況に陥ってしまったのだった。社会問題に強い関心を寄せる王聡威はこの小説を通して、後戻りの出来ない悲劇的結末に入り込んでしまい、孤独な行き止まりで最後を迎える社会的弱者の無力さと心の葛藤を再現してみせた。これは孤独死を描いた台湾初の小説であり、台湾の文芸界の人間性豊かなまなざしを伺い知ることができる。