「ふつう」の読みかたではないためにほぼ100%読み間違えられる自分の名前が好きだったりする。そして間違いに気づいた相手が恐縮しているのをよそに、こちらはたいてい面白がっている。
本書に収録されている2作はどちらも、名前がテーマのひとつになっている。国籍同様に、自らのアイデンティティを最も表すものだ。だからだろうか、本書を読むと彼女たちの振る舞いに対して「わかる」と「わからない」がともに同じ強さで迫ってくる。名前なんて関係ないわけではない、国籍なんて関係ないわけではない。いや、やっぱり関係ないかもしれない。でも、それを決めていいのはいつだって自分だ。同様に、「ふつう」になりたい自分と、「ふつう」ではないことを誇りに思う自分。そのどちらもが自然なことで、その時々で選んでいい。
私たちはひとりひとり違う場所に立ち、同じ景色を見ようとしている。その終わりのない試みを、本書は肯定してくれる。