日本語、他国語、または方言やスラングといった限られたコミュニティでしか通じないものなど、私たちの固有の言葉には、これまで過ごしてきた自分の時間がそれぞれに刻まれている。
本書は、台湾に生まれ東京に育った作家が、日本人とも台湾人とも、ましてや家族とも異なる「私の言葉」が、いったいどこから来るのかを体験的に見つめたエッセイ集。
日・台・中という複雑な歴史を経た三つの母語の狭間で揺れながら、複数の言葉の記憶とともに生きる自分自身への静かで揺るぎのない肯定へとつながっていく。職業上最も重要なツールである言葉に対して、言葉で向き合う作家の導き出したものは、私たちが対面する様々な分断を溶かす力強さと希望に満ちている。