母を看病する独り身の青年と、妻と娘を持つ小説家の高校教師。青年は夢に高校教師の「俺」の生活を垣間見る。高校教師の小説には青年の記憶と現実の「俺」の過去がせり出す。ふたりの「俺」は、夢と現実と創作世界を行き来しながら、「冥王星よりも遠いところ」へ向かう旅のような孤独を共有し、母やかつての恋人たちとの、あいまいかつ深刻な思い出を断片的に再生していく。
自分の存在や運命は誰がコントロールしているのだろう。見るものを思索の迷宮へと誘っていく物語は、古く「胡蝶の夢」をはじめ、デイヴィッド・リンチの映画作品や、新海誠「君の名は。」といった現代カルチャーに至るまで多くある。本作は、そういった系譜にありながら、トラウマについて、書くという作業について、尊厳死についてなど、多くの要素を含み、読者それぞれに異なる読みを示唆してくれる。
「遠いところには、信じることができて心待ちにしているものがある。それが遠くかすかなものであるほど、細かいところで繋がっている可能性はほとんどないけれど。」