ワン・トン監督が台湾を代表する作家 黄春明とタッグを組んだ、初の台湾郷土題材作品『海をみつめる日』
唐 顥芸 (台湾文学研究者・同志社大学グローバル・コミュニケーション学部准教授)トークイベント開催‼
台湾駐日本代表処台湾文化センターと、北海道大学中国文化論研究室、中国現代文学研究者懇話会による連携企画として、映画『海をみつめる日』上映会が5月16日(土)に北海道大学学術交流会館小講堂にて開催された。上映後に、台湾文学研究者・唐顥芸氏によるトークイベントが開催された。上映後には、台湾文学研究者・唐顥芸氏によるトークイベントも行われた。
『海をみつめる日』は、『本日公休』(2023/フー・ティエンユー監督)でスクリーンにカムバックしたルー・シャオフェンが、金馬奨最優秀主演女優賞を受賞した代表作である。「台湾巨匠傑作選2024・2025」にて特集され、熱い支持を集めるワン・トン監督による初の台湾郷土題材作品であり、原作者・黄春明は台湾を代表する郷土文学作家として知られる。本作では自ら脚本も手がけている。
1983年に制作された本作は、台湾アカデミー賞(金馬奨)最優秀主演女優賞・最優秀助演女優賞を受賞したほか、最優秀作品賞・最優秀脚色賞にもノミネートされ、台湾における郷土文学の映画化ブームのきっかけとなった。
ルー・シャオフェン演じる白梅(梅子)は幼い頃に養父に妓楼に売られ、未来への希望を失い日々を過ごしていた。かつての妹分が家庭を築き、母となりしあわせに暮らす姿に憧れを抱き、自分も誠実で気立てのよい客を見つけ、子どもを産み母になることを決意する。

登壇者:唐顥芸(台湾文学研究者、同志社大学グローバル・コミュニケーション学部准教授)
台湾の人々は何を思い、何に悲しむのか――
“現実の台湾社会”を描く郷土文学と映画
爽やかな日差しが降り注ぐ中、『台湾映画上映会2026』が北海道大学にて開幕した。初の北海道開催は大きな注目を集め、会場は満員となった。唐氏は「黄春明の原作は何度も読んでいましたが、映画ははじめてみました。原作との対比もおもしろかったです。」と感想を述べた。
リム・カーワイは、「台湾巨匠傑作選」や「台湾映画上映会」をきっかけに、『村と爆弾』『バナナパラダイス』『無言の丘』といった“台湾近代史三部作”や、『赤い柿』などワン・トン監督作品の上映機会が増えていることに触れながら、「その中でも『海をみつめる日』の上映は非常に貴重な機会」と語った。唐氏も大きくうなずきながら、その言葉に共感を示した。
本作の原作・脚本をつとめた作家・黄春明は、台湾を代表する作家である。
唐氏は、黄春明について「原作は1967年に発表されました。黄春明は台湾郷土文学を代表する作家として知られています」と紹介。当時の作品群について、「台湾の農村や、現実社会で生きる庶民の生活を描いていました。」と解説した。さらに児童文学にも尽力しており、「故郷・宜蘭で子どものための劇場を作るなど、幅広い活動を続けています」と語った。
「黄さんは91歳、お元気ですよね。僕はマレーシア出身で、幼い頃、黄さんの小説はマレーシアでも多く読まれていました。マレーシアの華僑社会では台湾文学の影響は大きく、当時、映画も大ヒットして観に行ったことを思い出しました。」と、黄春明をはじめとする台湾文学の影響を述べた上で、“台湾郷土文学”とは何かと問いかけた。

北海道大学 台湾映画上映会
「台湾郷土文学というのは、ある意味で特殊なジャンルでもあります」と唐氏。50年代には、戦後台湾に渡ってきた人々による懐郷文学が多く書かれていたという。また60年代になると、西洋文学の影響を受けたモダニズム文学も登場した。しかし60年代後半になると、「そうした文学は現実の台湾社会とかけ離れている」と感じる作家たちが現れる。「自分たちはどんな生活をし、何に悩み、何に感動し、どんな問題を抱えているのか――。自分たちが生きる“現在の台湾社会”を描こうとしたのが『台湾郷土文学』でした」
リムが、「映画でも当時の台湾社会が描かれていると思う。そして主人公の梅子は娼婦ですが、映画では差別的な目線ではなく、人間として対等な目線で描かれているのが印象的」だったと感じ、「なによりも梅子がひとりの女性として強い意志をもって、自分の人生を主体的に切り開いていこうとする女性像が新鮮だった」と語った。
それを受けて唐氏は、「梅子は養家に売られ、娼婦となります。そして過酷な運命の中で、自分自身と尊厳を取り戻そうとします」と語った。一方で、「だからといって彼女が差別から自由だったわけではありません」とも指摘。映画では、義父の葬儀への参列を拒まれたり、電車でかつての客から嫌がらせを受けたりする場面が描かれており、「彼女が置かれていた立場を理解することができます」と解説した。
そうした過酷な生活の中で梅子は、昔の妹分が母となったのをみて、自分も子供を産み、母となることを決める。そして客の男と関係をもち未婚の母になる。会場から「当時の台湾で、未婚の女性が母になることについて」問われると、「梅子は、自分の子供をもつことによって、人生をやり直す希望を見出した。そこからの彼女は主体性をもって、どんどん行動していきます。しかし小説が発表された67年、未婚の母に対して向けられる視線は厳しいものがあったと思います。実母も心配している描写がありました。映画の冒頭では、電車で嫌がらせを受けたのに、母となり子供と電車に乗ったとき、まわりのひとたちは席を譲り、彼女に親切に接します。そこに、彼女が人生を再生した、自分の尊厳を取り戻したということが象徴的に描かれています。」と唐氏が述べた。
最後に、台湾映画の魅力について問われると、唐氏は「台湾の歴史、社会、政治は、常に文学や映画において大きなテーマとして描かれてきました」と語った。「『台湾映画上映会2026』でも、『海をみつめる日』をはじめ、『あの写真の私たち』『甘露水』など、歴史や社会を見つめる作品が数多く上映されます。台湾映画は歴史、社会、政治と密接な関係があり、時に重く感じることもあるかもしれません。でも、そうした作品を通して、私たちは社会や歴史を知り、自分たちがどう生きるべきかを考えることができます」さらに、「台湾の人たちが何を思い、何を考え、何によろこび、どんな悲しみを抱えているのか――。そうしたことを、ぜひ映画を通して知ってほしいです」と語りかけた。「最近はエンターテインメント作品も数多く作られています。ぜひ台湾映画をたくさん観て、楽しんでください」と笑顔を見せると、会場からは大きな拍手が送られた。

唐顥芸(右1 台湾文学研究者・同志社大学グローバル・コミュニケーション学部准教授)×リム・カーワイ(左1 『台湾映画上映会2026』キュレーター・映画監督)