台湾文化センターでは、台湾を代表する写真家・謝三泰(しゃ・さんたい)による写真展 《街頭劇場、火燒島/流麻溝十五號》 を開催いたします。
謝三泰は1958年台湾・澎湖生まれ。長年にわたり新聞社や雑誌で報道写真家として活動し、戒厳令解除前後の台湾社会を第一線で記録してきました。二二八平反運動、五・二〇農民運動、野百合学生運動など、台湾の民主化に大きな影響を与えた市民運動をカメラに収め、また白色テロ期に政治犯が収容された緑島(旧称:火燒島)の実態を取材するなど、人権や自由をテーマとする作品を数多く発表してきました。
本展は、彼の代表的な二冊の写真集《街頭劇場》《火燒島:流麻溝十五號》を基に、写真作品60点と映像作品1点を展示します。台湾の街頭で繰り広げられた抗議運動を劇場的に切り取った作品群、そして緑島での記録写真や映像を通じて、民主化の歩みと人々の自由と人権への渇望を振り返ります。
【会期・会場】
■会期:2025年10月3日(金)~11月3日(月・祝)
【休館・特別開館のお知らせ】
10月10日(金・国慶日):休館
11月3日(月・祝):展覧会最終日につき特別開館
■会場:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
(〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-1-12 虎ノ門ビル2階)
■入場無料
【オープニングイベント】
■開幕式:10月3日(金)14:00~14:30(※招待者限定)
■特別講演会:同日 14:30~15:30(申込不要・入場自由)
登壇者
謝 三泰(しゃ・さんたい) 写真家、呉三連賞受賞
伊藤 俊治 美術史家、東京芸術大学名誉教授
港 千尋 多摩美術大学教授、写真家(司会)
沈 昭良(しん・しょうりょう) 本キュレーター、華梵大学教授、写真家
■交流会:同日 15:30~16:30(申込不要・入場自由)
謝三泰(しゃ・さんたい)
1958年、澎湖生まれ。長年にわたって報道写真に従事し、『自立早報』『自立晩報』『黒白新聞週刊』『新台湾週刊』『勁報』などのメディアで活動。戒厳令解除前後の台湾社会や、5・20 農民運動、国会の全面改選、初の総統直接選挙などをカメラ\で記録し、台湾民主化の過程を見届けてきた。近年は、庶民の暮らし、労働者、社会的弱者、環境問題などに焦点を当てて撮影を続けている。
粘っこく湿った海の風と抗争の街頭 《街頭劇場、火焼島/流麻溝十五号 謝三泰写真展》 に寄せて
沈昭良(本展キュレーター・華梵大学教授・写真家)
台湾の政権当局は1987年7月15日、38年と56日に及んだ戒 厳体制の解除を宣言した。報道統制や結社制限、集会禁止 が解かれる否や、威権統治下に鬱積していた人々の恨みは一 気に噴出し、まるで圧力鍋が破裂するかのようであった。二・ 二八事件の再評価、国会の全面改選要求、総統の直接選挙 を求める運動、軍人の政治介入反対、農民・労働者・教師・ 視覚障碍者の権利要求、反原発運動、刑法第100条への抗 議と修正を求める請願など、草の根からの抗議行動は雨後の筍 のごとく台湾各地に広がった。そして1992年5月16日、刑法第 100条の修正案が通過し、従来の「国体の破壊、国土および 憲法の不法な変更、政府転覆」について、「暴力や脅迫を用 いて実行に及ぶ場合」のみを内乱罪とする条文が追加された。これにより台湾社会は、思想と言論の自由を有する国家の仲間 入りを果たしたのである。
誰かの激動の人生や不屈の精神による成果を振り返ってみれ ば、往々にして彼/彼女らの根っこが幼少期や人生経験の中にすでに埋め込まれていることがよくわかる。謝三泰が生まれたの は1958年、場所は台湾の離島、澎湖[ポンフー ]の馬公[マー ゴン]である。北東から吹く、粘っこく湿った海の匂いのする季節 風に揉まれて育った島っ子は、少年期から雑多な労働に従事して貧しい家計を支えていた。小さな漁村で出口のみえない暮らしだったが、兵役により初めて外の世界へ踏みだす機会を得 た。入隊中に貯めたお金で一代目のNikonのカメラを手に入れ、退役後は営業職やタクシー運転手もこなした。ときに世界 はドキュメンタリー写真ブームの真っ最中、生活のなかで記録 した作品を雑誌や新聞へ投稿した。1984年以降は郷里を撮影対象とし、風櫃[フォングェイ]、嵵裡[シーリー ]、通樑[トンリャ オ]、講美[ジャンメイ]など一見馴染みが薄く、想像力を掻き立 てる地名の作品群において、広大な大海に対する島民らの畏 敬の念や謙譲の心と、困難を乗り越えてきた彼らの軌跡を見つめた。
三十歳には自立報系の新聞社に加わり、三十年に及ぶ報道写 真家の道を歩み始めた謝三泰は、蒋経国[しょう・けいこく]総統の死去、流血の五・二〇農民運動、郝柏村[かく・はくそん] 内閣に抗議する軍人の政治干政反対運動、そして政府が台湾に移転して以来で最大規模の学生運動だった野百合学運な ど、戒厳令解除前後の数々の社会運動をカメラに収めた。さらに六四天安門事件の直前には北京に四十日間滞在し、学生 指導者や群衆集会を取材、ついに新聞社に無理やり退去させ られるまで撮影をねばった。常にその写真はニュースと社会運動 の第一線にあり、時代の政治的転換を見つめ、国家の行方や社会のすがたを見つめ続けた。また、報道とふるさとの記録に 尽力するかたわら、労働者たちの肖像やマイノリティーの撮影計画にもたずさわり、写真を投資て弱者や労働階級といった声なき 人々の声を代弁した。
本展《街頭劇場、火焼島/流麻溝十五号》では、謝三泰の 写真集『街頭劇場』と『火燒島:流麻溝十五號』を基にして、二・ 二八平反(名誉回復)運動、五・二〇農民運動、野百合学 生運動、軍人の政治干政反対運動など、当時の台湾社会を象徴する抗議運動に対して劇場的な表現に取り組んだ作品を 選出した。また、1990年代初頭に綠島監獄(旧称:火焼島を取材した際の記録写真、及び映画『火焼島:流麻溝十五号』 のスチールなど動と静をあわせ持つ作品を組み合わせつつ、 直線的な展開とブロック状の構成によるコンテンポラリーな展示構成を取った。そこには、謝三泰の写真表現における率直さと 純粋さ、そして抗議活動や社会運動に対する持続的な眼差し を示されている。同時に、台湾の民主化過程において、異な る階層、エスニシティや世代の人々が、自由・民主・人権・ 正義を求めて繰りかえし立ち上がり、数多の困難を越え歩んできた姿をも振り返るものとなっている。