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台湾文化センター台湾映画上映会2025 -映画『猟師兄弟』トークイベント レポート

4人和海報2


『セデック・バレ』俳優陣再集結!現代に生きる原住民の家族を描いた『猟師兄弟』スー・ホンエン監督(左2)×石坂健治(右2/東京国際映画祭シニア・プログラマー・日本映画大学教授)トークイベント開催‼

解 説:千野拓政(右1/早稲田大学名誉教授)×張文菁(左1/愛知県立大学外国語学部中国学科准教授)




台北駐日経済文化代表処台湾文化センターと、早稲田大学政治経済学術院及び、中国現代文化領域の研究者の相互交流と研究の支援、海外研究機関との学術交流の促進、若手研究者の育成を目指す早稲田大学中国現代文化研究所との連携企画映画『猟師兄弟』上映会トークイベントが、6月14日(土)に早稲田大学小野記念講堂にて開催された。


本作は、タロコ族の祖父の日常を追ったドキュメンタリー映画『靈山』のスー・ホンエン監督の最新作で、『セデック・バレ』(2011)のシュー・イーファン、マー・ジーシアン、リン・チンタイの再共演も話題だ。

上映後に、来日したスー・ホンエン監督と、石坂健治さん(東京国際映画祭シニア・プログラマー・日本映画大学教授)が登壇してトークイベントが開催された。


4人石坂講話中2第2張照片

石坂健治(左1/東京国際映画祭シニア・プログラマー・日本映画大学教授)×スー・ホンエン監督、スー・ホンエン監督(右2)


現代社会に生きようとする兄と、伝統的な原住民の生活を守ろうとする弟─

兄弟の確執を主軸に、普遍的な人間の業が描かれた野心作!


伝統的なタロコ族の生活を送る父親は、息子たちを猟に連れていく。誤射によって父を殺してしまった弟は服役し、一方の兄は医師免許を取得し、家族のために働く道を選んだ。数年後、刑期を終えて弟が出所したことで、現代社会を受け入れる兄と、伝統的な価値観を守ろうとする弟は対立していく…。


スー・ホンエン監督が「これまでドキュメンタリー映画を作ってきて、『猟師兄弟』がはじめてのフィクション映画です。もし物足りないと感じる部分があったらご容赦ください。」と謙遜すると、会場から大きな拍手が起きた。タロコ族と閩南人の血を継ぐスー監督の故郷・花蓮で『猟師兄弟』の撮影が行われ、「おじさん、祖父の家も撮影で使いました。父と兄弟が猟に行く山も家族のもの」で、「プロの俳優だけではなく、本物のシャーマンにも出演してもらった」と、監督の家族や故郷の全面協力で撮影されたエピソードを語った。


石坂健治さんはスー監督が自身の祖父を追ったドキュメンタリー映画『靈山』を2016年の台北映画祭で観ており、「おじいさんの日常生活を追いながら、そこに台湾のニュース映像、台湾の原住民の歴史が織り込まれ、個人史と台湾史がミックスされた構成になっていて、素晴らしいドキュメンタリー映画でした。今回こうしてスー監督の新作を観ることができてうれしいですね。」と、スー監督への賛辞を贈った。そして「『靈山』で観た風景が『猟師兄弟』では多くでてきましたが、ロケハンは完璧だったということですね」と微笑むと、会場はあたたかい笑いに包まれた。


ドキュメンタリーではなく、フィクションという手法に挑んだことについて「いままではドキュメンタリーという手法で現実社会を表現してきたが、『猟師兄弟』では自分の家の状況、現代の台湾社会が持っている衝突を描こうと思い、それにはフィクションという手法が適していると思いました。自分にとってドキュメンタリーであってもフィクションであっても、人と人の感情を描くことに変わりはないと思っています」と、スー監督が自身の映画表現について語ると、「フィクションにしたことでよりスケールが大きくなり、原住民の物語でありながら、普遍的な人間の業を描き、現代社会を描くこと」ができていると石坂さんが評した。



觀眾遠 4人台上2第3張照片

早稲田大学 台湾映画上映会



本作はシュー・イーファン、マー・ジーシアン、リン・チンタイといった原住民の俳優のほかに、オーディションで選ばれた素人の原住民も出演している。会場の観客からの「原住民の俳優はそう多くはいないと思いますが、ちがう原住民の役柄を演じた俳優の方は大変だったのではないか」との質問に対し、「シュー・イーファンはタロコ族出身ですが、マー・ジーシアン、リン・チンタイはタロコ族出身ではないので、撮影に入る前にタロコ族の言葉を覚える必要がありました。映画を観ていると自然に思えますが、故郷の花蓮で上映した時は、親戚から「ちょっと言葉が不自然じゃない?」と言われてしまうこともありました(笑)」と、スー監督が撮影秘話を語った。台湾人の観客からは「タロコ族の言葉と華語がまざっている会話が多く、日本語字幕をみないと理解できない部分もあった」といい、「第二世代になると原住民の言葉が完璧ではなくなっており、日常会話は華語がまざっていることが多いんです。映画の中の会話は現代の台湾における原住民の日常に近いですね」と、スー監督が現代における原住民の言語事情について答えた。



蘇弘恩主角台上

スー・ホンエン監督



『猟師兄弟』は編集段階で映画の構成を大きく変えたといい、結末は観客によって受け取り方がちがう余韻を持たせたものに変更したという。「はじめは兄が自殺して終わる予定でした。しかし明確な結末を示さない構成にすることで、より父と息子、兄と弟、伝統的な生活と現代社会という衝突を描ける」と考えたとスー監督が語った。「父と兄弟という主軸がありながら、母親、兄の妻たち女性が対面している社会という側面も描かれており、台湾の現代社会を多面的に映しだしている」と、石坂さんが絶賛した。


「海外での上映は、台湾とはちがう反応があり、とても新鮮で大きな刺激を受けます。今日の上映会の経験を次回作に活かしたいです」とスー監督が次回作への抱負を語ると、会場は大きな拍手に包まれた。



蘇和石坂和家威和海報第5張照片

石坂健治(東京国際映画祭シニア・プログラマー・日本映画大学教授)×スー・ホンエン監督

×リム・カーワイ(『台湾映画上映会2025』キュレーター・映画監督)